専門医監修の製品開発

アトピー性皮膚炎乾燥皮膚に
対するグリコセラミド含有
外用剤の使用経験

神戸大学医学部皮膚科

堀川 達弥、 高島 務、 原田 晋、 千原 俊也、 市橋 正光

アトピー性皮膚炎の特に皮膚乾燥部に対しグリコセラミド含有外用剤(AKクリーム、AKローション)を4週間外用しその効果を検討した。やや有用以上を含め有効率は67%であった。不変20%、増悪は13%であった。やや有用以上の有用度は67%であり軽症のアトピー性皮膚炎ではグリコセラミド含有外用剤は有用であると考えた。(皮膚, 40:415 - 419, 1998)

Key Words: アトピー性皮膚炎、セラミド、乾燥皮膚、保湿剤、角層水分量

■はじめに
アトピー性皮膚炎発症の原因の全容はいまだ不明であるが、その多くは遺伝性または環境因子が発症に大きく関与すると考えられるアレルギー性疾患である 1)。
アトピー性皮膚炎の増悪と掻破とは密接な関係があり、痒みは皮膚の乾燥によって助長されると考えられている。すなわちアトピー性皮膚炎では角層の保湿能が低下しており 2)、とくにスフィンゴ脂質のセラミドやアミノ酸などよりなるnatural moisturizing factorの減少がその原因となっていることが明らかにされてきた 3~6)。アトピー性皮膚炎では皮膚の乾燥を伴うものが多く、また乾燥皮膚はそう痒を強め、掻破による増悪と密接に関連していると考えられる。またアトピー性皮膚炎患者の皮膚は外的刺激に対する過敏性があるとされているが、セラミドは保湿のみならず外界からの刺激に対して体内を防御すべき皮膚のバリアー機能を有しており、セラミドの減少は皮膚バリアー機能の低下をきたす。それゆえアトピー性皮膚炎ではセラミドの外用は有益であると思われる。我々はアトピー性皮膚炎患者の特に乾燥性皮膚に対してグリコセラミド含有配合剤(クリーム、ローション)外用を行い良好な結果を得たのでここに報告する。

■目的と方法
目的: グリコセラミド配合クリーム、ローションのアトピー性皮膚炎(特に乾燥性皮膚)に対する効果を検討する。

方法: 平成8年6月1日より平成9年4月31日までに神戸大学医学部付属病院皮膚科受診したアトピー性皮膚炎患者(軽症8例、中等症16例、重症6例)30名に対しロゼット社グリコセラミド配合クリーム(AKクリーム;0.5%グリコセラミド配合)、ローション(AKローション;0.85%グリコセラミド配合)を1日2~3回外用した。なお試験期間中は他の治療は不変とした。ステロイド外用例は3例のみでこの症例は開始前1カ月以上症状には変化がなかった。なお患者の同意は口頭にて得た。

評価: 外用開始4週後におこなった。紅斑、鱗屑、そう痒について0:無し、1:軽度、2:中等度、3:高度の4段階で評価。全般改善度については1:著明改善、2:改善、3:やや改善、4:不変、5:悪化の5段階で評価した。安全度については1.安全、2.ほぼ安全、3.安全性に問題あり、4.安全でない、の4項目について調査した。全般改善度および安全度を総合して有用度を1.極めて有用、2.有用、3.やや有用、4.無用、5.好ましくないの5段階で評価した。試験終了時に外用剤の使用感についてアンケート調査をおこなった。アンケートは全体的な使用感、肌へのなじみ、について 1)良い、2)普通、3)悪いの3段階で行い、べたつき感、しっとり感、さっぱり感については 1)あり、2)普通、3)ないの3段階で行った。
角層水分量についてはSkicon-200により測定した 7)。

■結果
Fig1.に全般改善度を示す。7%に著明改善、20%に改善、40%にやや改善を認め、やや改善以上では67%を占めた。20%は不変、13%に増悪を認めた。このうち重症例6例では1例のみが改善を示したが4例は不変、1例は悪化と効果が見られなかった。そう痒、紅斑、鱗屑のスコアの変化ではFig2.に示す如くそう痒、紅斑で外用後に有意な改善を認めた。鱗屑ではスコアの改善がみられたが有意ではなかった。2例に刺激性の接触皮膚炎と思われる増悪を認めたが他は5例に軽度の刺激感を認めたのみであった。安全度を加味した有用度ではやや有用以上のものが67%であったFig3.。5例について角層の水分量を測定したが外用前後でやや水分量の増加を認めたが有意ではなかったFig4.。アンケート調査のまとめをFig5.、Fig6.に示す。全体的な使用感はクリーム、ローションともに良いが多く、普通と答えたものを大きく上回り、また悪いと回答したものは0であった。肌へのなじみは良いと答えたものはクリームの方がローションよりも多く、悪いと答えたものはいなかった。べたつき感はクリーム、ローションともないと答えたものが多く、ありと答えたものはクリーム、ローションともにみられた。しっとり感およびさっぱり感は良いまたは普通と答えたものはクリームの方がローションよりも多く、ローションではしっとり感がないと答えたものが見られた。

■考察
アトピー性皮膚炎の治療は通常3方向から行われる。1つは主にステロイドホルモンなどの抗炎症薬の外用による炎症症状のコントロールである。他は原因検索と原因の除去およびスキンケアであり、皮膚を清潔に保ち、また保湿剤などを外用することにより、皮膚を乾燥からまもり、また皮膚のバリアー機能をできる限り健常状態に維持することである。アトピー性皮膚炎の皮膚は一般に乾燥しているが、その原因として表皮角層の水分量の低下が指摘されている。またアトピー性皮膚炎では経皮水分喪失量(TEWL)が増加している。これらは角層細胞間に存在する脂質やアミノ酸などのnatural moisturizing factorが減少しているためである。特にスフィンゴ脂質のセラミドの含量が減少していることによると考えられている 3~5, 8~12)。その原因としてはセラミド分解酵素ceramidaseの増加によるものではなく 10) セラミドを作るsphinomyelinase(SMase)の減少やsphingomyelin(SM)acylaseの増加によりセラミドではないsphingosyl-phosphorylcholineの産生系にsphingomyelinが代謝されるためではないかとされ 11)、その一因としてprosaposinの低下が示唆されている12)。 このようにセラミドの減少がアトピー性皮膚炎の乾燥膚の一因となっており、セラミド含有外用剤をアトピー性皮膚炎の乾燥性皮膚に外用することは合目的的である。今回我々がもちいたものはグリコセラミドであり水分保持能はあるが角層に通常存在するものではない。しかし表皮内でセラミドに変換されると考えられる。セラミド含有外用剤がアトピー性皮膚炎に対して有効であるという今回の結果より減少したセラミドを補充することはアトピー性皮膚炎の皮膚症状をコントロールするためには有用であろうと思われた。ただし重症例では不変または悪化した症例が多かったことより本外用剤は軽症例または中等症にもちいるべきであろうと思われた。

文献

  1. 堀川達弥、市橋正光:環境因子とアトピー性皮膚炎 Environ. Mutagen Res. 18 : 91-95, 1996
  2. Watanabe M, Tagami H, Horii I, Takahashi M,Kligman AM : Functional analyses of the superficial stratum
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