アトピー性皮膚炎とスキンケア
皮膚のバリア機能
皮膚の最外層を構成している表皮は極めて機能性に富んだバリアとして生体内部を保護している。表皮は角化細胞、色素細胞、ランゲルハンス細胞とメルケル細胞の4種類から構成されている。その中でも、角化細胞は表皮細胞の90%以上を占め、外部環境からの体内への侵入を防ぐ重要な役目を果たしている。角層は微小物質の侵入や紫外線を、物理的・化学的に防ぎ、微生物の侵入は自然免疫物質を分泌して防ぎ、さらに内部からの水分の蒸散を防ぎ、皮膚の高い保湿機能を担っている。また、pHを弱酸性に保って、病原性細菌の集落形成を阻止している。角層に分化する前の段階は顆粒細胞と呼ばれ、フィラグリンタンパク質を生成し、ケラチンタンパク質の凝集を手助けする重要な働きをしている。フィラグリンは角層に移行する段階で分解され、アミノ酸、ウロカニン酸などの天然保湿因子として機能する。なお、角化細胞は、表皮最深部では基底細胞として存在し、分裂後、4-6週間、遺伝子発現を変えながら分化し、最外層に達し自然に脱落する。これを表皮のターンオーバーと呼んでいる。分化の過程で、角化細胞は細胞骨格を強固にするためのケラチンフィラメントを作り、バリア機能を充実させるために、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリンやSRP蛋白質(serine rich protein:活性酸素を消去する)を生成する20)。
さらに角質細胞間にはスフィンゴ脂質として主にセラミドが、また、それに加え、コレステロールと脂肪酸がラメラ構造を持つ膜を形成し、その中に水分を捉え、蒸散させない仕組みを持っている。アトピー性皮膚炎では、これらの角層で重要なバリアの働きをするフィラグリン遺伝子の変異のため、あるいは、正常なフィラグリンタンパク質ができないために、バリア機能が低下すると考えられている。また、角層のバリア機能でも特に水分保持において重要な働きをしている細胞間スフィンゴ脂質セラミドの量が、アトピー性皮膚炎では減少し、さらに質的にも正常健康な人とは異なることから、セラミド減少はアトピー性皮膚炎の発症原因との考えが提示された21)。
セラミドを中心とした細胞間脂質の質的・量的変化による機能低下のため、保湿力が悪く、皮膚が乾燥し、かゆみが増し、さらに、掻破で炎症を悪化させ、その結果、Th2免疫が高まるとの考えが提示されている。
表皮には、さらにランゲルハンス細胞が存在する。ランゲルハンス細胞は外来からの異物と感染性生物に対し、免疫反応を担当している。異物をどん食したランゲルハンス細胞は、それらを消化し、リンパ節まで運び免疫反応を成立させる。特にバリア機能が破壊された表皮では、ランゲルハンス細胞の反応は、抗原をどん食したあと数時間の短い間に表皮を離れ、18時間後には所属リンパ節に達すると報告されている22)。また、TH2反応を引き起こす。また、バリアの破壊により、速やかにIL-10とIL-4が発現されるため、TH2反応が主となる23)。ランゲルハンス細胞が関与する免疫反応で、アトピー性皮膚炎患者のIgE値が高くなると考えられる。また、ランゲルハンス細胞と深くかかわる表皮顆粒層に存在するtight junction のバリア機能としての働きも重要である24)。
色素細胞は、メラニンを生成し、周辺の角化細胞にメラノソーム(メラニンが生成される小器官)を分配し、角化細胞の細胞核を紫外線の障害から守ると考えられている。紫外線を浴びた皮膚がメラニン沈着で黒くなるのは、角化細胞で生成されたサイトカイン(SCF:stem cell factorやEndothelin)やホルモンペプチド(α-MSH:α-melanocyte stimulating hormone)がパラクライン様式で色素細胞に働き、メラニン生成を促進させるためと考えられている25)。
さらに、色素細胞が生成するα-MSHはメラニン生成活性を持つだけではなく、皮膚の炎症の場では、Tregを誘導し炎症反応を抑制する働きを持っている26)。
神戸大学名誉教授市橋正光先生
神戸大学大学院医学研究科博士課程修了。専門は皮膚科学、とくに紫外線の皮膚への影響について長年にわたり研究。海外でも皮膚科医育成、治療に携わる。