アトピー性皮膚炎とスキンケア

スキンケアの役割:バリア機能の維持と回復

常に環境から多様な刺激を受けている表皮角化細胞は、最外層の角層細胞が酵素の働きにより一枚ずつ脱落する。そのため、表皮最深部基底層の角化細胞が分裂し、分化し最終的には角層細胞となる(表皮のターンオーバー)。
ターンオーバーを繰り返す表皮では、その構造と機能を維持するため、中枢神経・末梢神経、内分泌や免疫システムが常に働き、バリア機能を調整している。内外からの刺激が強すぎ、あるいは皮膚疾患や老化で適応能が低下してくると、皮膚にはストレスとなり、表皮の自然免疫、獲得免疫の働きが障害され、さらに弱酸性のpHを維持できなくなり皮膚の常在細菌層に変化が生じ、炎症や感染症の原因となる。角層のバリア機能が低下すると、アトピー性皮膚炎の発症リスクが高まる。

表皮角化細胞のバリア機能に重要な役割を演じている抗菌作用因子は皮に侵入する細菌などの感染源に対し生来及び反応性に抗菌作用で対抗している。近年、表皮角化細胞が合成する物質が抗炎症作用を持つことが明らかにされ、免疫調整作用を持つペプチド(antimicrobial peptides :AMPs)として注目されている。1997年human β-defensin 2(hBD)が発見されて以降、現在に至るまで、human β-defensins(hBD)とcathelicidins(LL-37)の研究が進んでいる。β-defensin2以外に、hBD3、psoriasin、dermosidinなどが見いだされている。これらは主に表皮顆粒層で生成され、lamellar bodyに蓄積されているが、さらに細菌感染に反応して生成される。また、hBD2はマクロファージや樹状細胞でも作られている。一方、LL-37はマクロファージと白血球でも作られている。これらのAMPsは肥満細胞の脱顆粒を促進し、獲得免疫に関与するT細胞を引き寄せる。また、 LL-37も抗菌作用を発揮するだけではなく、角化細胞の移動能を高め傷の治癒を早める働きがある。
アトピー性皮膚炎患者では、感染時にAMPsを生成するが、正常皮膚に比べ、量的に感染源を排除するには十分なレベルには達しないと言われている。

スキンケアは、健康な皮膚を維持するために行う、多種の行為であり、以下のように分類できる。(1)皮膚表面の内・外からの不要な付着物質を除去する、(2)皮膚を乾燥、紫外線、有害性感染源や小分子から保護し、バリア機能を維持する、(3)急性の皮膚損傷だけではなく、慢性刺激、つまり、加齢・光老化や皮膚疾患のため低下したバリア機能と構造を回復する、の3点である27)
アトピー性皮膚炎では、多くの患者で基本的に、バリア機能が低下しているため、アレルゲンとなる小物質や感染源を速やかに効率よく除去することが重要である。

特に乳幼児では、皮脂が発達していないため、乾燥傾向が強いためバリア機能が低下しやすいので、しっかりした保湿が重要となる。特に乳児期にアトピー性皮膚炎に罹患する危険性が高いので、乳児では、皮膚表面の付着物質を除去するには、従来の沐浴だけでは不十分であり、石鹸の泡を使ったケアで効率よく付着物質を除去することが望ましい。乳児だけではなく、幼・小児期でも、入浴後、まだ角層の水分が蒸発で失われる前に、保湿剤を皮膚に塗布し、保湿効果を高めることがアトピー性皮膚炎の予防に繋がり、また、治療においても重要である。保湿剤としては、保険医療で頻用される尿素製剤、ヒルドイドで代表されるヘパリン類似製剤やビタミンAやEのローションあるいはクリームが主として使われている。しかし、乳幼児皮膚への尿素製剤の使用は、刺激性を考慮し、避けたいと考える。理論的にも、また、臨床経験から最も勧められるのは、天然セラミド含有クリ−ムである28)。アトピー性皮膚炎では角層細胞間のバリアとして保湿に重要なフィラグリンタンパク質の異常に加え、セラミドが質的・量的に異常と云われている29)

思春期・成人期のアトピー性皮膚炎でも、空気が乾燥する冬季には、保湿剤を使用し皮膚の乾燥を防ぐことで、皮疹の悪化を抑え、またかゆみを軽減することが期待できる。古くから使われているワセリン、および、その精製品としてのプロペトなどがあるが、水分の蒸散を防ぐ効果はあるものの、べとつきが強く、患者のQOLが低下する。ヘパリン類似クリームの塗布はかなり有効であるが、可能な限り、より効果のあるセラミド含有クリームの塗布を勧める。
アトピー性皮膚炎患者のスキンケアでは、先に述べたとおり、かゆみを抑え、皮膚を掻破させないことである。掻破により、バリア機能は破壊され、炎症が強まる。従って、抗ヒスタミン製剤により、掻破行動を抑制する間接的なスキンケアも重要である。

近年、フィラグリンの質的量的な異常がバリア機能を傷害することがアトピー性皮膚炎の主要な原因と考えられている。そのため、角化細胞のフィラグリン生成活性を高める物質として皮膚塗布剤の開発も行われているが、まだ、臨床での広がりはない。今後の開発に期待したい30)
従って、現時点では、皮膚症状が明らかなアトピー性皮膚炎の治療だけではなく、副腎皮質ホルモンや、免疫用製剤による治療が不要なアトピー性皮膚炎の予防を兼ねて、毎日角層のバリア機能を高め、維持するためのスキンケアが重要である。そのためには、保湿剤天然セラミド含有クリームとローションの塗布が最も効果な方法の一つと筆者は考えている。

神戸大学名誉教授市橋正光先生

神戸大学大学院医学研究科博士課程修了。専門は皮膚科学、とくに紫外線の皮膚への影響について長年にわたり研究。海外でも皮膚科医育成、治療に携わる。